天 売 島


( 平成22年7月9〜10日 )

 天売島は、北海道の西部羽幌町の沖合30qの日本海に浮かぶ周囲12q、人口380人余りの小さな島です。この島はオロロン鳥やケイマフリなどの海鳥の生息地として知られている。


 羽幌の港で折り畳み自転車を持って乗ったフェリーは小一時間で天売島に着いた。駐在所のおまわりさんが立っている。島の人は「この島は平和だから事件なんて起きない。これが警察の仕事だ」と揶揄するが、不審者の入島を見張っているのだろう。



 自転車をこぎ出し反時計回りに進む。わずかな起伏はあるが細い道を隣りの焼尻島や遠くに利尻島を眺めながらの海を見ろして進むと、島の北西部に海鳥観鳥施設があった。海鳥は昼間は沖合に行っているのでこの時間には鳥の姿は少ないがそれでも結構な数だ。さらに進むといたる所に「マムシに注意」の立て札が立っている。




 小さな島なので1時間余りで島を一周して島の中心部に戻ると真新しい大きな建物の天売小中学校が建っている。いわゆる小中一貫ではないので、校門にはそれぞれ天売小学校・天売中学校と書かれていて、玄関の左側には小学校の校名と校章が、右側には中学校の校名と校章が掲げられている。生徒数は小中合わせて19人だが校長先生は一人で小学校長と中学校長を兼務している。
 建物が大変大きく立派なのは給食センターや地区の集会所等の他の公共施設が併設されているからだ。






 校歌はそれぞれ別々にあるが”天売小中学校愛唱歌”というのがあって、その歌詞が学校の入口にオロロン鳥のモニュメントと共に掲げられている。その歌詞がなかなかに良い。




 車の通行はほとんどないのに、学校入口の道道548号天売島線にはこの島唯一の信号機が設置されている。子ども達が本土へ行ったときに戸惑わないようにとのものであり、島の人たちは北海道本島のことを”本土”と言い、本州のことを”内地”と言っている。
 島を離れるときに立ち寄ったフェリー乗り場の前の土産物店の店主は「交通信号機が設置されたのは私が交通安全指導員をやっている時だった」と言っていたが、こんな島にも交通安全指導員がいることに妙に感心した。




 小学校の少し先に天売高等学校がある。この高校は羽幌町立の定時制普通科の学校で生徒数は6人で教師が10人の小さな高校である。




 校門の前で写真を撮っていたら若い教師が出てきて、「学校の中を見ませんか」と言って校舎内を案内してくれた。
 職員室に入って行くと、夕方からの授業の準備をしていた教師の視線が突然の侵入者に向かってきたが、前記の教師が事情を説明をしてくれた。



 生徒は未だ登校していないので教室はガランとしている。広い教室に教壇と生徒の机が一つだけだが、ストーブはちゃんと備えられている。早めに登校して教室外に出ている生徒のカバンがポツンとある。



 教師はパソコン・ルームにも連れて行ってくれた。パソコンの授業は生徒全員で受けるとのことで8台のデスクトップのPCが備えられている。教壇にはプロジェクターもあって設備は充実している。無論プリンターも用意されていました。




 若い教師は「普通科の学校だが、これからウニの缶詰作りの実習授業があるので、やってみませんか」と誘ってくれた。実習授業に大変興味があったが、この日の夕方に野鳥観察会の予約をしてあるのでこれは諦めた。


 来年春には生徒4人が卒業するが、新入生がいない。でも、その翌年には新入生が1人ありそれ以降もポツポツと新入生があるので、当面は学校は存続すると島の人は安心している。過去には生徒がゼロになりそうになったが、その時は「奥の手」を使って学校を使って学校を存続させたんだと言っている。「奥の手」は現役を退いた元漁師を入学させたらしい。




 学校前の道路を挟んだ向かい側に羽幌町役場天売支所が建っている。
 ここに参議院選挙の投票所の看板が掲げられている。普通は選挙の投票は日曜日に行われるものだが、ここでは2日も早い金曜日に繰り上げ投票が行われる。聞いてみたら羽幌町の開票所に投票箱を運ぶ船が海が荒れて欠航になった場合を考慮して2日早く投票を行っているとのことだ。

      


 
翌日の土曜日にフェリーに乗ると投票箱を持った数人の男が乗り込んできた。前日に行われた投票箱を羽幌町の開票所に運ぶ町役場の職員だが、周りを見回しても警護の人は見当たらない。
 訊いてみたら「私たちだけで運んでいるんですよ」と、いたって平和な島である。



 天売島は海鳥の島として知られていて、中でもオロロン鳥は正式にはウミガラスという名であり、1938年に国の天然記念物に指定されたときには約4万羽がいたと言われているが、2003年には19羽だけが観察された絶滅危惧種である。
 昼間に自転車で島を一周したときに海鳥観察台で見た海鳥の群れだが、鳥の名前は分からない。


海鳥観察舎で見た海鳥の群れ



海鳥の観察台と海鳥の巣穴 (昼間に撮ったもの)


 夕方に旅館に迎えに来てくれた観鳥ツアーの車に乗って海鳥の観察台に向かった。
 数10万羽はいると言われているウトウの群れが夕暮れになると一斉に斜面に掘られている巣穴に戻ってきた。目の前すれすれに低空飛行で巣穴に突進して行く。ガイドは巣穴は深いものでは2〜3mもあると説明してくれたが、ウトウは自分の巣穴が分かるようで、この様は壮観であった。

   
海鳥が入る巣穴 ウトウ


 この日の旅館「オロロン荘」の夕食は豪華だった。ウニ・イクラ・ホタテなどどれを食べても美味しく、ビールはサッポロ、お酒は増毛の「国稀」、テレビはファイターズのナイター中継、道産子は郷土愛が強いようだ。



 羽幌へ戻るフェリー乗り場の前のお土産屋さんに立ち寄った。この店は前記の昔交通安全指導員をやっていた老人の店だが、そこへと老人と顔見知りの二人が入ってきた。
 この二人は本土から来た人で、女性は羽幌町教育委員会の職員で男性は羽幌町で開業している歯科医だった。二人は小中学校の歯科検診でこの島に来ていたのだったが、島の医療について、”天売島には天売診療所があり医師・看護師・事務員が各1人が常駐”しているとのことだ。

左の2人が教育委員会の職員と歯科検診の医師  右の2人がお土産屋さん



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