#31

 網走の自転車屋のおばさん

随分昔のことになるが、50年前の北海道一周サイクリングでのことです。

知床半島で知り合ったサイクリングの男と一緒に斜里駅近くの自転車屋へ立ち寄った。店主のおばさんと話しているときにパンク修理のお客さんが現れた。あいにく修理出来る店員が出かけていておばさんは修理出来ない。「ボクがやりますよ」と言ってパンク修理をしてやった。(写真の中央がボクです) 

おばさんは「私はこれから網走の本店へ汽車で帰るから、君たちはここへ泊っていきなさい。その代りお客さんが来たら修理してやってね」と言って網走へ帰って行った。

帰宅してからお礼状を出したら、「いつか叉網走へ来たら寄ってください」と手紙がきました。 

そして、50年後、自転車で走る体力も無くなっているので、今度は車で2か月かけて北海道を旅した。北海道は随分変化していてどんな奥地に入っても道路は完全舗装されていた。

斜里駅近くの自転車屋へ行ってみたら、そこには自転車屋が無くてコンビニが建っていて自転車屋があったことなど誰も知らなかった。 

自転車で旅したとき、このおばさんは50代後半で存命していたとしても100歳を越えているはずだ。でも、息子か孫がいるだろうと思い、網走本店の住所地へ行ってみた。そして、網走駅からほど近い目的の場所には自転車屋はない。付近で訊いてみたが分からない。

同業者の方が分かるだろうと思い、当該地に一番近い自転車店へ行ってみた。幸いにもそこの店主は70歳ぐらいで写真を見せたらすぐに分かった。「ちょっとハイカラだったおばあちゃんだったけど大分前に亡くなったよ。その後、息子さんが自転車店を営んでいたが数年前に店をたたんで他所へ引っ越してしまった」。 

2013,8,15